異国からの便り

前に軽く書いたことだが、父親が趣味で投稿している論文が目に止まったらしく、カナダはオンタリオ州で開催される会議への招待メールがやってきた。

 

なんでも科学や医学、薬学に教育とこの世の理系学問すべてをテーマにした壮大な国際会議で、今回が初開催とのことだ。

旅費、宿泊費は全負担、一週間の滞在が全部タダだという話で、本人も乗り気だったのでぜひという流れになった。

自分はもちろん暇なので、お相伴にあずかれたら最高だなと思っていた。

真夏だし避暑地に格安で向かえるのは気分がいいし、正直言ってマイナー極まりない親父の論文が引っかかるレベルの国際会議なら、変な学者もどきみたいなのにいっぱい会えそうで面白そうだという怖いもの見たさもあった。

 

今日はその話に進展があり、宿泊先や会場、会議のウェブサイトなんかが貼ってあるメールが届いたわけだ。

 

 

ウェブサイトによると会場はヴォーンのホテルに併設されていて、賞も受賞したなかなか立派なものらしい。

ビザの取得や海外渡航の諸手続きも提携している会社がやってくれるそうで、人数と内訳を連絡し参加費を払うと全面的に協力してくれるとのこと。ありがたいね。

 

こんな太っ腹な国際会議を開催してくれるなんて、カナダはなんて学者に優しい国なのだろう。親切なスポンサーが居たものだな。

 

そう思ってスポンサー欄を見ると、プラチナスポンサーはただ一社で請け負ってくれているみたいだ。見上げた企業もあるもんだな。

 

ウェブサイトはこんな感じである。序文を翻訳に放り込むと、海洋工学に長年携わってきた企業のようだ。

名前がアラブ系っぽくて特徴的なのに、聞いたことないな。どんな素晴らしい企業なんだろう。そう思って検索してみる。

 

2件。

港と海原の橋渡しみたいな素敵なキャッチコピーで最前線を走り続けた企業のGoogleヒット数が2

ちなみにあと1件はもちろん

この会議……って調べた時思ってたけど、今見たら違うじゃん!農学、生物学、生命科学会議じゃねえかこれ!使い回しかよ!

ともかく、今回は

詐欺学会

に引っかかりかけた話です。

 

これ以外にも怪しい点は多々あったが、いよいよおかしいと思い「海外 詐欺 学会」でググった。

するとロンドンで開催されるという存在しない学会に危うく行きかけたという記事が出てくる。それによると、「ホテルが存在しなかった」のがキーポイントとなり詐欺に気づいたらしい。

 

会場のホテルは……と

写真を信じるなら、わりと立派な建物みたいだ。この住所には何があるのかな?

車屋である。画像右の建物をよく見てみると……

 

まんまじゃねーか!車屋の写真をホテルの外観ってことで掲載してたのかよ!よく見たらガラスにめっちゃ車写ってるじゃねーか!

余談だがここに映っているのは別の車屋で、現在は潰れたか買収されたかで今の車屋が入っているみたいだ。

 

詐欺が確定したところで軽く掘ってみるとほかもガバガバであった。

上の海洋工学企業の住所はそもそもカリフォルニアの離島でデカいホテルが建ってるし、ホテルの公式サイトに3Dツアーがあったので見てみると数歩歩けば英ラフバラー大学って書いてある。

主催している団体の住所にはガラス張りのジムが建っていて学会の運営は難しそうだ。

他にも掘れば出てくるのだろうけど、まあ重要なのは掘らなければ物凄く「それっぽい」点である。

 

ページ内の主催団体やスポンサー企業やホテルに至るまでリンクは全て繋がっているし、なんか作りが綺麗で文章もそれらしいことがたくさん書いてある。

その地域か言語に精通していない人間なら引っかかるだろう。

また、主催団体も中華系を標榜しており、香港とカナダの両方に拠点を構えているなど歴史的背景も踏まえたそれっぽさを備えている。

おそらくこれは、アジア系の無名研究者をターゲットにした、架空の学会の参加費を払わせる詐欺なのだろう。

 

海洋工学企業のページが使いまわしで、別の偽学会のページがリンク切れだったことも加味すると手口はこんな具合かな。

 

外見だけきっちりした偽サイトを10ほど用意

偽学会のページを立ち上げて適当なマイナー投稿雑誌の研究者に片っ端にオファーを送り、ページのURLを送る

しばらくしたら偽学会のページのみを潰して作り直す、以下ループ

 

はじめて見たときはリンク先の偽サイトが詐欺にしては手が込んでるなと感心したものだが、学会のサイトさえ潰してしまえば他の諸サイトは使い回せるというのは目からウロコだった!何なら複数の偽学会を並走させることもできるじゃないか!世の中には賢い人がいっぱい居るんだな!

 

なかでも無名研究者に目をつけたのはなかなか良い嗅覚をしていると思う。

研究というのは孤独なもので、外に認められる機会がないまま続けると人はだんだん狂い、その機会を希うようになっていく。

そこに異国からの便りが届き、海外で自分の成果を披露できるとなると、脇目も振らず飛びつく人間が居ることは想像に難くない。

たった一回ググるだけで避けられる詐欺なんだけど、無名ってことは年齢や能力や運といった要素に何かしらにミソがついているってことなので、そういった層がググる確率は有名研究者に比べると遥かに低いと想像できる。

弱者が居るとなればマイナー雑誌をも読み漁りカモにする。詐欺師というのは勤勉なんだな。

 

一応最後に書いとくと経緯を画像にしたのはどうせすぐリンクが切れるだろうってのと、詐欺サイトに飛んでほしくないからです。

なんか抜かれてほしくないからね。だとするとおれは手遅れだけど。